いまだに影響の大きいコロナ禍ですが、制限・自粛一辺倒の対応から「コロナ禍でもできるだけ通常通り経済活動を行おう」という、いわゆるwithコロナへとシフトが進んでいます。
労働人口の減少・高齢化、度重なる法改正、そしてコロナ禍と様々な要素からの影響を受けて、派遣業界は今後どのように成長していくのか?

今回は、弊社代表取締役・田形が株式会社リクルートスタッフィング・執行役員の平本 早苗様に今後の派遣業界の動向やリクルートスタッフィング社で行っているお取り組みなどのお話を伺いました。その内容を掲載します。

※以降、敬称略

より詳細に、より深く派遣スタッフのことを「よく知って、活かす。」ことが必要不可欠

田形:

私はこれから派遣業界が迎える新しい時代を「派遣2.0」と呼んでいます。「派遣先と派遣スタッフのどちらをより重視するのか?」という「派遣事業のバランス」を考える時、「派遣2.0」では、派遣スタッフをいっそう重視し、スタッフファーストの経営が当たり前になる。この変化を業界のバージョンが変わるという意味で「派遣2.0」と呼んでいます。本日は私が感じるこの業界の変化をテーマにお話を伺えればと思っております。

平本:

派遣業界に時代の変化が訪れているということについては、まったくもって同感です。当社にはもともと「49:51」という言葉があります。これは派遣先、派遣スタッフどちらも大事なのは大前提ですが、何か判断に迷うときには少しでも派遣スタッフの方に身を寄せようという考え方です。派遣スタッフを大切にすることによって、結果的に派遣スタッフ・派遣先・派遣元の三者がうまく機能し、価値あるサービスを提供できると思っています。

個人的にも働く人自身がハッピーでないと、企業もハッピーにはなれないと思うんです。また最近はより強くその傾向を感じますね。言うなれば6:4もしくは7:3くらいの比率でしょうか。私たち派遣会社はもともと、企業に対して必要な人材を必要なタイミングで提案していくという社会的義務を担っていますが、派遣スタッフに認めてもらえない派遣会社は働いてもらうどころか登録さえしてもらえず、その義務を果たすことができません。

田形:

派遣スタッフ重視の方針がいっそう強まった背景について教えて下さい。

平本:

派遣スタッフが以前に増して「多様化」しているのがその背景だと考えています。私の担当領域である「事務派遣サービス」においても同じで、「なぜその仕事を選ぶのか」「どのような勤務形態で働くのか」など個人の選択に様々なバリエーションがでてきているという実感があります。

だからこそ、より詳細に、より深く派遣スタッフのことを「よく知って、活かす。」ことが必要不可欠です。田形さんがおっしゃっていた、「派遣スタッフの満足をよりいっそう重視する、派遣2.0の時代」が到来しているという事には深く共感します。

平本 早苗(ひらもと さなえ)
株式会社リクルートスタッフィング 執行役員
東京営業統括部 統括部長

 田形:

派遣スタッフを「よく知って、活かす。」という言葉には強く共感します。
御社ではそれを実現するために、どのような取り組みをされていますか?

平本:

やはりポイントは「就業サポート」ですね。派遣スタッフと密にコミュニケ―ションを取り、コンディションや志向、スキルの変化を見逃さない。多様化している希望を把握し、理解を深める。そして必要であれば派遣先と交渉したり、調整したりする。そこまでを含めて当社では「就業サポート」と考えています。

 実はこれらの情報は5年くらい前までは営業の脳内DB(データベース)にのみ蓄積されており、個々がその情報を活かして一生懸命頑張るという状況でした。今はそれを社内のDBに残すようにしています。身近な例だと営業担当が変わってもこれまでの変遷を細かく引き継ぐことができるため、派遣スタッフに不安を与えず、会社として一定のサービスレベルを担保することにも繋がっています。

「派遣スタッフと向き合い、情報を正しく残す」を意識することにより、情報の粒度が細かくなってきた

田形:

就業フォローの記録を残し資産として蓄積、活用することを5年も前から取り組まれているというのは、業界の中でも早い着手ではないかと思います。御社の取り組みはまさに我々が業界全体に推奨していきたいと考えている取り組みなのですが、これまでにどのような壁を乗り越えてこられたのかについて教えていただけますか?

 平本:

「派遣スタッフをよく知り、活かすために、就業サポートをしっかりとする」こと自体は社内の誰もが賛成でしたが、情報をシステムに入力することについては、一定の壁、抵抗感がありました。
 しかし、自分自身が行った就業フォローの記録を残すことで、「前回こうおっしゃっていたから次のフォローではこういう提案をしよう」と考えたり、先回りしたリマインドを行えるようになったり、情報管理をするメリットが作業負担を上回るようになってきた形ですね。

田形:

仕組化を進める中で、社員の行動や取得する情報の質が上がるなど、ポジティブな変化を感じるようなことはありましたか?

平本:

「派遣スタッフと向き合い、情報を正しく残す」を意識することにより、情報の粒度が細かくなってきたと思います。当初は派遣スタッフの方のOAスキルや業務内容が中心でしたが、ライフステージや将来を見据えた上でのスキルアップ支援など多角的なサポートも行えるようになってきたと思います。

田形:

なるほど。現在、社内システムでそういった履歴を管理されているのですね。
入力する項目の設定など、必要な情報を蓄積するための工夫があるのでしょうか?

平本:

はい。そうですね。やはり白紙に一からの入力だと難しいので、会社として把握したい項目をテンプレート化しました。ただ、この内容はやっていくうちに「これはちょっと違う。」「この項目を追加したほうがいい。」「こういう聞き方をしたほうがいい。」という現場からの意見をもとに改善をしています。現場の実務のニーズにあわせて改善し、今に至っています。

キャリア支援については処遇改善が絶対的にセット

田形:

さて、少し話が変わりますが、「派遣2.0」の時代においては「キャリア支援」が重要になると考えています。御社の「キャリア支援」の取組について教えて下さい。

平本:

キャリア支援については処遇改善が絶対的にセットであると考えています。先ほど述べた就業サポ―トを通して「どのような業務をどの範囲まで担当していただいているか」は把握できますが、それが契約開始当時のものから変化することがあります。それを「絶対に見逃さない。」ということを心がけています。派遣スタッフの多くは「長く働きたい」と思っていらっしゃいますし、派遣先としても長く就業してほしいという希望は強くあります。スタッフの方の立場に立ち、長期的にモチベーション高くご就業をして頂くには、処遇変更は必要であると考えています。もちろん根拠もなく「時給を上げてください」という交渉をするわけではありません。業務状況が大きく変わっているのであれば「処遇変更のタイミングではないか?」というお話をさせていただきますし、少なくとも変わっているという事実は伝えるようにしています。派遣先も認識されていないケースもありますので、事実を知ることにより「そこまでできるようになっているなら、こういう仕事もお任せしたい。」「そういった志向があるのであれば、もっと仕事を出せるよ。」と言っていただき、処遇改善につなげることができます。処遇向上が本丸ではありますが、スキルアップにつながる機会創出といった会話に発展させることができ、派遣先に対しても私たちの価値を発揮することができます。

田形:

御社は「時給アップの交渉が強い」というイメージが私の中にあります。派遣スタッフに言われてから動く、辞めそうになってから動くというより、先に営業が積極的に交渉しているというイメージがあるのですが、会社としての方針なのでしょうか。

平本:

はい。どこまでできているのか、まだまだ道半ばではありますが、会社として「やる」ということを決めています。派遣スタッフに言われたからやるという事ではなく、定期的な就業フォローの中に「処遇改善交渉」があるという位置づけで、今回がそのタイミングだととらえたら、積極的にトライしています。また万が一その時はあがらなくても派遣先に認知して頂くことが大事だと思っています。そういった交渉を2回3回繰り返すことにより、派遣先からも派遣スタッフに対して「ありがとう」という気持ちで時給アップをしてもらうことができます。

田形:

キャリア支援の大きな軸が処遇改善ということですね。

田形 正広(たがた まさひろ)
Life Ship株式会社 代表取締役

平本:

そうですね。もちろん「キャリアカウンセリング」についても専門のコンサルタントを置いて整備しています。社員向けにキャリアカウンセリング専門資格の取得支援も行っており、毎年一定数受験していますから、ホルダーは増えています。

「派遣先と派遣スタッフが満足する関係をつくる」という、もともと私たちがやりたいことの為に評価を行なっている

田形:

現在は法令により「派遣スタッフの評価」が義務付けられていますが、御社では「スタッフ評価」についてはどのように運用されているのでしょうか。

平本:

評価については法令上の義務がありますから、「年に1度は行っているか」のチェックは会社として行ってはいますが、実務としては「就業フォロー」の中で契約更新のタイミングで評価を実施しています。義務を果たすためだけに評価をするのは面白くないし、本質的ではないと思っています。「派遣先と派遣スタッフが満足する関係をつくる」という、もともと私たちがやりたいことの為に評価を行なっています。

田形:

派遣スタッフの評価結果について派遣先や派遣スタッフへのフィードバックは行っていらっしゃいますか?

平本:

就業サポートを実施したら、派遣先へのフィードバックは当たり前にセットとして考えています。私たちが把握し、満足して終わりではなく、私たちが知ったことを派遣先に知ってもらうことが重要で、積極的にマネジメントにも活かしていただきたいと思っています。その結果、派遣スタッフにとってよりよい就業環境をつくることにもつながるのはないでしょうか?

田形:

「派遣先へのフィードバックの実施まで徹底するのは、営業に負担が多い」と考える派遣会社もありますが、御社の場合はあくまでもフィードバックは徹底されているということですね。

平本:

フィードバックまでしっかり行うことが、優位性につながるとむしろ思っています。派遣スタッフからも派遣先からも評価いただく営業というのは、この一連の流れをしっかりとやっています。何かあったらきちんと報告してくれて、密に連携してくれる営業や派遣会社は、だからこそ信頼が得られているのだと思います。

派遣スタッフがいなければ派遣会社は成り立たない

田形:

管理部門ではなく営業部門のトップである平本さんのお話は、評価や就業フォローについてどう捉えるべきかについて大変参考になるものだと感じました。評価や就業フォローはコンプライアンス遵守の話にとどまらず、自社の業績向上にもつながる取組みなのだとあらためて確認できた気がします。ありがとうございました。

田形:

最後に、平本さんにとって「派遣スタッフ」というのはどんな存在ですか?

平本:

そうですね。私の場合は「パートナー」だと思っています。ですから「仲間」に近いですね。ちなみに、派遣先のことも「パートナー」だと思っています。
派遣スタッフによっては、私たちから仕事をもらう、雇われる立場であり対等ではないという図式に見えているケースがあるかもしれませんが、私たちも「派遣スタッフに選ばれる立場」であると思っていますし、「派遣スタッフがいなければ派遣会社は成り立たない」とも思っています。私たちも派遣スタッフを幸せにしたいと頑張る一方、派遣スタッフにも私たちに所属しているから頑張れるというような「もちつもたれつ」と言いますか、そういうパートナーの関係でありたいと思っています。