いまだに影響の大きいコロナ禍ですが、制限・自粛一辺倒の対応から「コロナ禍でもできるだけ通常通り経済活動を行おう」という、いわゆるwithコロナへとシフトが進んでいます。
労働人口の減少・高齢化、度重なる法改正、そしてコロナ禍と様々な要素からの影響を受けて、派遣業界は今後どのように成長していくのか?

今回は、弊社代表取締役・田形がマンパワーグループ社常務執行役員の吉田 誠様に今後の派遣業界の動向やマンパワーグループ社で行っているお取り組みなどのお話を伺いました。その内容を掲載します。

※以降、敬称略

我々は企業と労働者の間の「介在価値」を感じてもらうことを目標としてきました

田形:

私は現在派遣業界に新時代が訪れていると考えています。これまでの派遣業はどちらかというと「企業側」を重視する傾向にあったと思いますが、新しい時代においては「スタッフ側」つまり個人をいっそう重視するようになってきている。そんな業界の変化を私は「派遣2.0」と呼んでいます。これについて吉田様はどのように感じますか?

吉田:

「個人重視の時代がやってきている。」ということについては同感です。よりよい方向にもっと早くバージョンを上げていくべきだとも感じます。その中で派遣スタッフにどのようにアプローチするのかということがこれから業界を成長させていくための肝になると考えています。

田形:

私が「派遣1.0」と定義している時代は、総論、「営業重視」「クライアント企業優先」で個人を大切にしてこなかった。そういった姿勢が派遣に対する悪いイメージを作る原因になってしまった。業界の地位を高めていくためにはこれまで以上に「個人」を大切にする形で業界をバージョンアップしていかなくてはならないと考えています。

吉田:

直接雇用と違い、派遣という仕組みでは派遣会社が企業と労働者の間に介在します。我々は法令遵守による雇用環境の整備、スタッフフォローやキャリア支援を通じてその「介在価値」を発揮しなければ存在価値がありません。我々が間にいる「価値を感じてもらう」ということを目標として、この数年をかけて「MyPath」という取り組みの中で「タレントエージェント」を増やしてきました。

吉田 誠(よしだ まこと) マンパワーグループ株式会社 常務執行役員 東日本営業本部 本部長

 田形:

「MyPath」や「タレントエージェント」の取り組みについて、教えて下さい。
 業界専門誌が行うスタッフ満足度調査などでも御社はこのところトップ評価をとることが多いですが、この取組みが影響しているのかなど、とても関心があります。

吉田:

グローバルの取り組みとして「MyPath」というキャリア支援プログラムがあり、その中に「タレントエージェント」がいるという位置づけです。スタッフフォローやキャリア支援の専任担当者を「タレントエージェント」と呼んでいます。日本においてフォロー自体は既存のアクションでしたが、それを一層強化する取り組みとして2年程前から「MyPath」の取り組みが始まりました。  派遣スタッフとの会話が増えることのデメリットはありません。業務量、工数が増えるという捉え方もありますが、情報を得られないことにより生じる機会損失を考えれば、むしろ業績に寄与していると思います。この取り組みの成果が、派遣スタッフから会社への信頼や評価の向上にも表れてきていると感じています。

派遣スタッフの意向を尊重するオペレーションに舵を切りました

田形:

いわゆる、スタッフフォローの業務についてそれを専任で行う人材を「タレントエージェント」として配置したということですね。

 吉田:

そうですね。スタッフフォローだけを担当する人材を配置しました。業界全体として、営業担当が顧客対応とあわせて派遣スタッフのフォローも行うという形態が多いと思いますが、顧客からの依頼(オーダー)が増えると、比例して業務量は増えていきます。そうすると物理的にスタッフフォローにかけられる時間が減ってしまい、派遣スタッフからの情報が得られにくくなってきます。結果として見えない課題がどんどん増えていくという良くない流れが生じると思っています。

田形:

派遣先の現場が見えないというのが派遣の構造ですが、そこをいかに「見に行く」かが大切だ、というお考えですよね。スタッフフォローを強化するために会社として行ったことはどういったものがあるのでしょうか?

吉田:

そうですね。現状のスタッフフォローでは、今の契約を1日でも長く続けてもらうことを最重要視している派遣会社は多いと思います。ただしそれは、その意向が派遣スタッフも同様である事が大前提です。我々は、派遣スタッフの意向を尊重するオペレーションに舵を切りました。
そもそも、派遣会社都合の背景には、目先の稼働人数や売上を減らしたくないといった思いがあると思います。それはそれで、業績維持の為には大切な考え方なのですが、数値化されずに失っているものも大きいと考えました。
 契約を延長してもらうためのアプローチに固執するのではなく、他の就業先を希望する派遣スタッフの方には別ポジションへの移行をしてもらうことが最適であり、結果我々の業績に連動するという事が明らかになったため、スタッフフォローのオペレーションの優先順位を変更することになりました。

「MyPath」は「人生の支援をする」という大きなコンセプトを掲げています

田形:

契約更新を迷っている派遣スタッフや、今後のキャリアを考え始めた派遣スタッフに対して派遣先都合の対応をやめて、派遣スタッフのキャリア支援をいかにおこなうか?という目線を優先したということですね。「MyPath」というキャリア支援のプログラムでは、派遣として続けてもらうだけではなくそれ以外の雇用形態も含めた支援をするのでしょうか?

吉田:

はい。派遣先で正社員化するパターンもあれば、別の人材紹介の求人をご紹介するパターンもあります。「MyPath」は「人生の支援をする」という大きなコンセプトを掲げています。人生においてその人がどういう働き方をしたいのか、どのくらいの収入を得たいのか等を把握しながら、その方の希望に沿ったサポートをするということを目指しています。

田形:

「人生の支援をする」とても良い言葉ですね。私の思う「派遣2.0」の世界観にもぴったり合うコンセプトです。スタッフフォロー、キャリア支援については、どの派遣会社も重要だと認識していると思うのですが、御社は先行して具体的な取組を実行されているので、そういったことが昨今の評判としても現れているのだと感じます。派遣スタッフの声を聞くNPSの取組みの記事も拝見したのですが、そのお話も聞かせて下さい。

吉田:

NPSは四半期に一度実施しています。NPSでは良いコメントも悪いコメントも現場と共有してどのようにしていくべきなのか?ということを繰り返し行っています。  社内でのフィードバックの仕方には気をつけて、ネガティブなコメントが入った営業やタレントエージェントに対して、頭ごなしに指導するのではなく、その営業の業務量が適切にマネジメントできているのかを確認するようにしています。時間があるのにやっていないのであれば営業本人の責任ですが、明らかに業務量が多く手が回らないのであれば、業務分担の問題なので、そちらを見直すように管理職に指示しています。

田形:

なるほど。ネガティブなコメントをポイントでみてその部分についてのみ指導するのではなく、なぜそうなっているのかを構造的に理解して組織として対処するということですね。NPSは基本的なフォームがあってそれが数値化され、さらにフリーコメント欄があるようなものですか?
田形 正広(たがた まさひろ) Life Ship株式会社 代表取締役

吉田:

そうです。基本項目については数値集計がされています。タレントエージェントがついている派遣スタッフとそうでない派遣スタッフで分けて集計しますが、やはりタレントエージェントがついているポジションのほうが良い数値がでてきます。

田形:

タレントエージェントについては、ロープレを取り入れた研修まで実施しているとも聞きました。

吉田:

タレントエージェント研修は定期開催をしています。タレントエージェントにとっての学びの機会やタレントエージェント同士のつながりを持つことで、自分だけの目線でなく、他の目線を取り入れていくことができるのではないかと考え実施しています。キャリアコンサルティングの専門資格保有者が研修を担当しており、フォローの考え方や心理学に基づいた対人スキルの向上、事例に基づいたロープレなどが行われています。受講者からも好評です。

田形:

御社のタレントエージェントの記事を拝見した際、「派遣スタッフに喜んでもらうことがやりがいになっている」というコメントがありましたが、タレントエージェントの「やりがい」をどのように維持されているのでしょうか?数値目標等はあるのですか?

吉田:

数値目標については、更新率と再稼働率、そして正社員等への転換時の手数料、を各支店毎に設定しています。
また、何年も言い続けているので、今はフォロー領域が重視されているということが、社内において十分に認知されているということも「やりがい」を感じる一つの要因と言えると思います。
 取り組みを始めた頃は、営業現場の時間を削られたくないと、タレントエージェント研修の参加に乗り気ではない支店もありました。その都度「タレントエージェント研修は業績をあげる為の研修でもある。」と説明をしました。派遣業においては契約開始と終了の数値がありますが、契約開始の数値にこだわることは多いですよね。それも大事なことですが、再稼働の1件には大きな意味があるのです。

派遣スタッフと会話ができていないと再稼働率はあがらないです

田形:

「スタッフフォローが業績向上につながる」というメッセージを営業のトップが発信されている。御社のようなトップ企業がそのような考えでいらっしゃると、多くの派遣スタッフの満足度も向上し、業界全体の地位向上にもつながっていくと感じます。
 派遣スタッフと日々向き合っているタレントエージェントの方からは「やりがい」についてどのような声がありますか?

吉田:

対面で派遣スタッフの方から感謝を伝えていただくこともありますし、先ほどのNPSのコメントでも「ここまでちゃんと話を聞いてもらえる派遣会社ははじめてです。」や「こういうアドバイスをいただいたおかげで正社員就業ができました。〇〇さんのおかげです」といったコメントをいただいたりして、やりがいを実感しているようです。

田形:

それは嬉しいですよね。タレントエージェントの数値目標として、更新率、再稼働率、コンバージョンに関する数値があるとおっしゃっていましたが、取り組み開始以降、これらの数値に変化はありましたか?

吉田:

圧倒的に再稼働率があがりました。正直、「MyPath」の取り組み以前はあまり積極的に再稼働率向上への施策を行えていなかったと思います。ですが、求人数が増加し、売り手市場になっていく中で、新規募集が苦しくなるのは明らかだったので、再稼働率のアップは必須であるという考えに至りました。

田形:

そこに、「MyPath」やタレントエージェントの効果があったということですね。

吉田:

はい。やはり、派遣スタッフと会話ができていないと再稼働率はあがらないです。派遣会社都合のフォローをすると、派遣スタッフは営業に正しい情報を伝えず、結果的に知らないうちに他社から就業することが決まっていたりします。
 「本当のことを言ってもらえない関係性はよくない。そこは変えていこう。」ということで、終了理由の分析やスタッフフォローの仕方も改善していきました。
 もちろん、私自身、営業出身ですから営業の大変さもよく理解できます。ですので営業がやりやすい仕組みを作ろうと考えながら取り組みました。

「営業のためにもフォローが重要」との考えに至りました

田形:

大事なことだからやりなさいと押し付けるだけではなく、担当の業務キャパシティにおさまって大事なことを実行できるよう会社として仕組みづくりをされている。そういった考え方を業界に広げて、業界全体の地位向上に結びつけたいです。
 本日お話しているような派遣スタッフのフォローやキャリア支援の強化というのは御社全体の重要施策の位置付けなのでしょうか?

吉田:

本部戦略として毎年大方針を定める中に「フォロー領域の強化」が毎年変わらずに入っています。それだけこの施策を重要だと考えています。私自身は営業職としてのキャリアが長く営業重視のタイプでしたが、キャリアカウンセリング協会の理事を務めさせていただいている中で、フォローを考える深さのようなものができ「営業のためにもフォローが重要」との考えに至りました。

田形:

そこで実施したのが先ほどのタレントエージェント研修ということですね。タレントエージェントと派遣先との接点や営業との連携はどのようにされていますか?

吉田:

タレントエージェントと派遣先との直接の接点はあまりないですね。その分、営業とタレントエージェントの連携は非常に重要だと考えています。タレントエージェントは独立した組織として各支店の営業と連携しているわけではなく、各支店に所属する形としているのも営業との連携を重視してのことです。

田形:

最後になりますが、吉田様にとっての派遣スタッフとは、どのような存在ですか?

吉田:

「チームメイト」でしょうか。最前線でお仕事をされており、その方たちがいないと事業が成り立たないわけです。ですから、派遣スタッフ含めてチームメイトであると思っています。

田形:

吉田様とは、以前から切磋琢磨できるよい関係で多くの刺激を頂いておりましたが、今回じっくりとお話を伺うことができ、あらためて多くの学びがありました。最近の御社の評判の高さの理由もよく理解できた気がします。引き続き御社のみならず、業界全体の発展に邁進して下さい。
本日はありがとうございました。