いまだに影響の大きいコロナ禍ですが、制限・自粛一辺倒の対応から「コロナ禍でもできるだけ通常通り経済活動を行おう」という、いわゆるwithコロナへとシフトが進んでいます。
労働人口の減少・高齢化、度重なる法改正、そしてコロナ禍と様々な要素からの影響を受けて、派遣業界は今後どのように成長していくのか?

今回は、弊社代表取締役・田形がパーソルテンプスタッフ株式会社・代表取締役社長の木村 和成様に今後の派遣業界の動向やパーソルテンプスタッフ社で行っているお取り組みなどのお話を伺いました。その内容を掲載します。

※以降、敬称略

私のメッセージは、「より一層、はたらく人に意識を向けましょう」というもの

田形:

私はこれから派遣業界が迎える新しい時代を「派遣2.0」と呼んでいます。「派遣先と派遣スタッフのどちらをより重視するのか?」という「派遣事業のバランス」を考える時、「派遣2.0」では、派遣スタッフをいっそう重視し、スタッフファーストの経営が当たり前になる。この変化を業界のバージョンが変わるという意味で「派遣2.0」と呼んでいます。本日は私が感じるこの業界の変化をテーマにお話を伺えればと思っております。

木村:

「派遣2.0」という言葉は初めて聞きましたが、違和感はありません。ちょうど今、当社では、来年度からの新しい3ヶ年の中期経営計画の議論をしているのですが、まさにその中での私のメッセージは、「より一層、はたらく人に意識を向けましょう」というものです。派遣先と派遣スタッフの双方がともに大切だというのはもちろんですが、従来は派遣先への比重の方が重い実態であったと認識しています。あえて派遣スタッフを強く意識することで、結果的に「5:5(派遣先と派遣スタッフをともに大切にする)」の状態になると考えています。今後、私たちは、派遣スタッフから選ばれ続けなければ、派遣先からの期待に応え続けることはできなくなると考えています。

木村 和成(きむら かずなり)
パーソルテンプスタッフ株式会社 代表取締役社長

田形:

ありがとうございます。派遣スタッフ重視の意識を持つ中で、具体的にはどのような取組みをされていますか?

木村:

一つは、2020年10月から「ファンづくり」に取り組んでいます。これは派遣スタッフだけに限った話ではなく、派遣スタッフ、派遣先、社員、そして世の中に「パーソルテンプスタッフ」という会社のファンになっていただくための取り組みです。特別なことをするということではなく、派遣スタッフや派遣先のために「もうひと手間、プラスで何かできることはないか?」と、私たちが介在する価値を高めたいと考えています。

二つ目は、処遇改善も含めて派遣という働き方の価値を向上させつつ「多種多様な働き方をどんどんつくっていこう」ということです。今の派遣契約を履行していただくだけではなく、契約が終わった時に派遣スタッフの方々が自律的に次のキャリアを選べるような能力を身に付けるサポートをしていくことが必要だと考えています。

 田形:

「派遣スタッフのためにできることはないか?」というお話を聞いて思い出したのですが、活躍された派遣スタッフを表彰する制度をはじめられたと伺っています。

木村:

スタッフの表彰制度については、「派遣スタッフに感謝をする機会が欲しい。」という声が社員からあがり、実施することにしました。当社が人を活かすというビジネスを目指すのであればやはり、頑張っていただいた方に、リスペクトと感謝をきちんと伝えようという趣旨のものです。「10(テン)2(プ)」にちなんで全国から102名の方を表彰させていただきました(笑)。これからもパーソルテンプスタッフで、前向きに頑張っていただけるようトロフィーと感謝状を派遣スタッフにお渡しして感謝を伝えるという場だったのですが、社員の方も派遣スタッフの気持ちや逆に感謝のお言葉をいただいたことによりモチベーションが上がり、日々の業務に取り組む上での大きな励みになったようです。コロナ禍でリモートでのイベント開催ではありましたが、人と人のつながりが見えてきて非常によかったと実感し、この取り組みは今後も続けたいと思っています。

キャリア支援を真剣に取り組んでいるか否かは、「選ばれる派遣会社」と「選ばれない派遣会社」の大きな分岐点になるでしょう

田形:

スタッフが自律的にキャリアを選択できるようにしたいというお話に関して、御社のキャリア支援の取り組みについて詳しく聞かせて下さい。

 木村:

これからは教育環境を一層強化するなど処遇改善を行う仕組みを整えていきたいと考えています。派遣スタッフの処遇を上げる場合、まず派遣先に料金交渉を行い、派遣料を上げていただいてから派遣スタッフに還元するというのが多かったと思います。これからはスタッフの能力を向上させ、担っていただく業務の幅やレベルを上げる、業務自体の価値を向上させることで派遣料金の交渉を能動的に行なっていきたいと考えています。ここがまさに、次の中期経営計画で行いたいことです。一朝一夕にはいかないとは思いますが、私たちがこういう取り組みを積極的に行うことが、派遣で働く方々の地位を上げていくことにもつながると考えています。

正直、現状の取り組みでは十分ではないと認識しており、法定教育研修も含めた教育コンテンツの充実が必要です。教育研修の受講者がさらに増えるように仕組みや内容を整え、資格取得やスキルアップをしていただいたことに対して、それらを活かし活躍できる新しい職場を提供することにより、処遇をアップしていくという好循環をつくっていきたいと思います。

田形:

私は「派遣2.0」において「キャリア支援」が重要なキーワードであり、キャリア支援に真剣に取り組まない会社は「派遣2.0」の時代では生き残れないと考えています。能動的に派遣スタッフのキャリアアップを支援し、派遣スタッフの価値を上げ、処遇改善につなげていくことが必要になってくるということですね。

木村:

そうですね。これまでも景気がよくなって賃上げ機運が高まれば需給バランスによって派遣スタッフの時間給もあがりました。あるいは、長い期間同じ派遣先で働いているスタッフの貢献に報いるためにお客様にも派遣料金のアップをお願いするということもあります。これはこれでやり続けていきますが、本当にやらなくてはならないのは「派遣スタッフ一人ひとりの能力向上を支援し、処遇改善を行う」ということです。

今後はいっそう「人」が「会社」を選ぶ時代になります。正社員が就職先や転職先を選ぶのと同じで、派遣スタッフが派遣会社を選ぶ時代になります。キャリア支援を真剣に取り組んでいるか否かは、「選ばれる派遣会社」と「選ばれない派遣会社」の大きな分岐点になるでしょう。

田形 正広(たがた まさひろ)
Life Ship株式会社 代表取締役

「テンプスタッフで働くと、成長実感があり処遇もあがる」という現実を本気で作っていかなくてはならないという危機感があります。派遣スタッフの価値や処遇を上げていくということに取り組まない派遣会社は派遣スタッフに選ばれなくなり、淘汰されていくでしょう。

田形:

木村社長は「派遣スタッフはジョブ型雇用」だと仰っていますね。

木村:

そうですね。日本では遅れていると言われている「ジョブ型雇用」という働き方を派遣会社は何十年も前からやっているはずなのですが、どうも「補助的に」「付属的に」そのスキルを使ってください、という考えに留まっています。派遣はまさに「ジョブ型である。」という想いが私の中にあります。「ジョブ型」での働き方という機運が世の中で高まっていますから、「この派遣スタッフは〇〇ができるからお客様に貢献できますよ。」という働きかけがしやすい時代になってきていると思います。また、それが適正な評価、適正な賃金につながりますし、同一労働同一賃金の考え方にもつながっていくと思います。

スキル型、職種型といったような、より客観的な評価軸を作っていく必要があると感じている

田形:

同一労働同一賃金の文脈で「派遣スタッフの評価」というものが法令上も求められるようになりました。業界内でもいち早く対応をとられた御社の評価運用の現状について教えて下さい。

木村:

「まだまだ法律上の最低限の対応である。」というのが実情だと思っています。また、中身についても、それぞれの派遣スタッフの「スキル」評価も行っていますが、「働きぶり」、例えば、組織へのフィット度、チームワーク、頑張りといった定性的なものを点数化して評価する割合も多くなっています。今後は、「何ができれば、どういったスキルがあれば派遣料金・処遇があがるのか」といったことに踏み込んでいく必要があると考えています。まさに先ほどお話したジョブ型です。定性的な評価ではどうしても主観によってしまい、お客様とスタッフとの3者のすり合わせもしにくい内容になります。スキル型、職種型といったような、より客観的な評価軸を作っていく必要があると感じており、派遣会社は、それを作れると思っています。

田形:

派遣業界としてもまだそういったスキル型、職種型の評価軸を持っている派遣会社は数少ないと思いますが、それができれば評価をキャリア支援に繋げやすくなりますね。

木村:

キャリア支援については、仕事そのものだけでなく、その周辺についてのサポートも重要であると考えています。働いていない時期でも、当社とつながり続けていただくためにはどうするか?当社とつながっていることにメリットを感じていただくために何が必要かということも、考えていかなくてはならないと思っています。

「はたらく」ということの接点においてパーソルグループが『選ばれてサポートする』を繰り返していくことを目指しています

田形:

働くこと以外のもの、つまり「ワーク&ライフ」でいう「ライフの部分」までサポートしていこうという構想があるのですか?

木村:

そうですね。「選ばれる会社になる。」ということを突き詰めていくと働くことそのものに対するサービスを磨くことは当然として、それだけでは「選ばれ続ける会社」にはなれないと考えています。新卒で入社したら定年まで同じ会社で働き続けるという時代ではありませんから、人材の流動化は進み、フレキシブルな働き方や多様な人々も増えていくでしょう。また、ライフイベントによる働き方の変更など、人生のなかで誰もが何度かの「転機」を経験すると思いますが「何かあった時にはパーソルテンプスタッフに」と第一想起していただける会社にならなくてはなりません。そのためにはワークのみならずその周辺にあるライフの部分も意識したサービスも必要だと思っています。

田形:

木村さんのお話を伺っていると、御社や御社グループが単純な人と仕事のマッチングを大きく越えて「well-being」までスコープに入れて事業運営されていくのだという意志を感じます。

木村:

まさに、「働くwell-beingを実現したい。」という話を最近よくしています。「パーソル」として「はたらくwell-beingの創造」というメッセージを掲げ、「はたらく」ということの接点においてパーソルグループが『選ばれてサポートする』を繰り返していくことを目指しています。同じ個人であっても正社員で働きたい時期もあれば、派遣のようにフレキシブルな働き方をしたい時期、あるいはフリーランスとして働きたい時期などフェーズによって希望に変化が訪れるわけで、その時その時で、パーソルグループを選んでいただき、サポートできる状態を目指すという考えですね。職種も雇用形態も多種多様な働き方を支援できる、機会を提供できるグループでありたいと考えています。

田形:

最後に、木村さんにとって「派遣スタッフ」とはどのような存在ですか?

木村:

難しいですね(笑)。というのも私にとっては内勤社員も派遣スタッフも区切りがなくそこをあえて意識したことはなかったです。私たちは「人づくり」をする会社だと思っており、私自身が「人づくり」が好きで働いています。ですから、内勤社員であっても派遣スタッフであっても、その方々が「よりよい働きをすることで、よりよい生活が実現できること」、そのことに自分が関わることができる、それがやりたいことなんですよね。「社員」「派遣スタッフ」というのはそのタイミングでその方が選んだ働き方でしかないし、「よりよい生活」というのも必ずしも高い収入が得られるということでもなく多様なものだと思うのです。その時々で、その方にとって「よりよい働き方をすることで、よりよい生活を実現する」手助けができる、あとで振り返ったときに、パーソルグループのおかげで、パーソルテンプスタッフのおかげで、担当の木村さんのおかげでと言ってもらえることが、私のやりがいなので、そういう方を一人でも増やせればと思っています。

田形:

本日、初めて直接インタビューをさせて頂き、木村社長は言葉や形式よりも行動や実感を大切にされている方だということがよくわかりました。本日は貴重なお話をお聞かせ頂き、誠にありがとうございました。